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名古屋地方裁判所岡崎支部 平成6年(ワ)391号 判決

主文

原告の本件異議申立はこれを却下する。

理由

本件手形訴訟(平成六年(手ウ)第五号)は、原告より額面金三〇五〇万円の約束手形につき額面金額にその法定利息の支払いを併せ求めて裏書人の被告に対して平成六年四月五日提起されたところ、審理中振出人である訴外有限会社スギヤ開発代表者の訴外杉田敏行の強迫に基づく裏書の取消の抗弁が被告より提出されたが、手形訴訟なるが故に右抗弁の審理をすることなく結審し、当裁判所は平成六年七月二二日金一五〇〇万円の担保を供することを条件とする仮執行宣言付原告勝訴の手形判決を言渡したものである。

原告は右判決に担保付仮執行宣言が付せられたのを不服として平成六年七月二九日異議を申立たものであるところ、本案につき全部勝訴した原告はつぎの理由から付随の裁判についてのみ独立の異議の申立はできないというべきである。けだし、

(一)  仮執行宣言は本案の裁判に対する付随の裁判であり、かつ判決確定に至るまでのつなぎ措置である性質を有するにすぎないものであるし、

(二)  本件については敗訴した被告からも適法な異議の申立があつたことは一件記録上明らかであるところ、その通常訴訟の審理の結果異議を申立なかつた原告のためにも右仮執行宣言が判決により取消しまたは変更される可能性があるから、本案につき全面勝訴した原告に独立の異議の申立をさせる必要性はなく、

(三)  さらに、本来訴訟というものは形式的真実ないし実質的真実の問題はさておき真実を解明するに当事者対等を原則として当事者双方の攻撃防御方法を尽くさせて結論を出すのがもともとの使命というべく、手形訴訟は手形債権の形式性確実性に鑑みその解決の迅速性の要請から特則としてとくに証拠制限をして簡易迅速に原告に債務名義を取得させることを目的に制定されたものであるが、これにつき被告側から真撃な攻撃防御方法があると看られる場合にはこれを無視してまでもその特則によらしめることは妥当を欠き、本来の当事者対等の訴訟形式に戻るべきであるし、

(四)  一旦執行を許してしまえば、後にそれが相当でない場合の現状復帰の途は迂遠であつて、また困難な場合もあることが考えられる、からである。

本件は事案の性質上まさしく被告の抗弁の真否が争点であるから、手形訴訟の制限の中で自由裁量により担保付仮執行宣言をしたものであつて、右の付随的裁判につき独立の不服申立を許す場合にはかえつて繁雑であり訴訟遅延を免れないであろうことを付言して、民事訴訟法第四五五条を適用して本件申立は不適法としてこれを却下する。

(裁判官 宗 哲朗)

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